インタビュー

脚本・宮藤官九郎×演出・河原雅彦が語る舞台「印獣」(後編)

『宮藤さんが寝た』って話を聞いてどれだけ心強かったか。起きてたら誉められると思ったので(笑)
 

――そんな三田さんが、お二人の印象を話してくれたんですが、宮藤さんのことは「かわいい」っておっしゃってました。
なぜかわいいかというと、飲み会の席でおやすみになられてたということでしたが…。

 
宮藤 「(苦笑)。ヤバイ、それ一生忘れないんだろうな~」。  
河原 「大企業だったら確実にクビですね」。  
宮藤 「スゴイ疲れてたんですよ。それと緊張したんですよ。僕も面識は無かったんですけど、前に一度僕が脚本を書いた映画に出ていただいていて。(ねずみの三銃士の)3人も全くの初対面で、共演もないって言っていたし、自分が『三田さんで行きましょうよ』って(池田)成志さんにも言っていたので、何となく責任を感じていて。ただでさえ、食事会に遅れていくっていうことにスゴイプレッシャーを感じていたんです。で、会場に着いたら、笑い声が店の外まで聞えてくるくらいスゴイ盛り上がっていて。ホッとして寝ちゃったんですね(笑)」。
河原 「僕は、別日でお食事会をさせていただいたんですけど、『宮藤さんが寝た』って話を聞いてどれだけ心強かったか。起きてたら誉められると思ったので(笑)」。
宮藤 「でも、これはもう印獣という舞台が始まっていて、本番でも三田さんが舞台上で長セリフを言っている間に誰かが寝るっていうシーンを書こうかなっていうくらい。『アナタ今寝てたわね』って言わせるのもありかなって思ってます(笑)」。
河原 「こわ~(笑)。でも逆に、三銃士の誰かが長ゼリフを言っている間に、三田さんが寝るみたいな」。
宮藤 「『完全に寝る』ってト書き(=脚本に書いてある場面や状況を説明する文)、オモシロイね~。でも、その食事会っていうのが不思議な会だったんですよ。生瀬さんってそういうところにあんまり来ないんですけど、今回はいらしてて。和気あいあいとしゃべっているのをみると、なんかこの舞台の始まりにそぐわない気がして(笑)。でも、すごい楽しみですね」。
  (数秒の沈黙後、突然)
宮藤 「はぁ~」。  
河原 「ん、どうした?」。  
宮藤 「いや、がんばんなきゃな~」。  
やっぱり圧倒的なものを作りたいし、作れる人たちが集まっていると思います。
 

――河原さんについては、『優しいお顔をなさりながら、スゴイ演出をされる方なのね、河原さんって』とおっしゃりながら、『今回、血の海を渡る覚悟でいます』とのことでした。

 
河原 「どんな人だと思われてるのかな(笑)」。
宮藤 「さすがに、そんなに悪いことは考えないですよね」。
河原 「そこまでの思いを抱いて関わっていただけていると思うとうれしいですね」。
宮藤 「僕なんか、そこまでの覚悟で何かしたことがないですもん。やっぱり言うことが違いますね」。
河原 「やっぱり(その思いに)応えないといけないなと思いますね。前回もそうだったんですけど、やっぱり圧倒的なものを作りたいし、作れる人たちが集まっていると思います。だから今回、三田さんが入ったこの作品っていうのも、“そこそこオモシロイ作品”にはならなくなる。なんか、得体のしれない感じの作品になる。そういう仕事大好きですけど、それに伴うリスク、大変さみたいなものは、まだ前向きにとらえています」。
いい稽古場を作るために本を書こうかなと思ってます(笑)

――三田さんと、ねずみの三銃士以外の共演者(岡田さん、上地さん)の印象は?

 
宮藤 「僕、岡田君と舞台やるのは初めてなんです。テレビはよくやっているんですけど。キャスティングしてからこの役誰がいいって考えていた時に、(ねずみの)三銃士の間に入って、ものすごいヘラヘラしているやつがいいなって漠然と思っていて。物語を背負っているようで背負っていないんだけど、調子のいいことをずっと言ってるやつがいたらいいなって考えていて、岡田君が面白いんじゃないかなと思って。不思議な間を持っている不思議な役者さんですよね。器用だし。上地さんは、成志さんが、『訳のわからないことしゃべるやつがいい』ってずっと言ってて。マギー君の作品に出ていたのを見たんですけど、何しゃべってるかまったく分からないのに笑っちゃうみたいな存在で。それは沖縄の言葉だったんですけど。舞台にいたら面白いなと思って、キャスティングしたんです(笑)」。
河原 「2回くらいお会いしたんですけど、何にもしなくても勝手にしゃべってくれるです。その時は言葉は聞き取れましたけど(笑)。彼女がいることで、舞台としてものすごい助かる気がしてるんです。だって女性っていったら、三田さん以外は彼女しかいないんですよ。これで、無口な女性だったらって思うと大変で…(笑)」。
宮藤 「和やかにしてくれそうな気がしますよね。なんか内容よりも稽古場のこと話してますよね」。
河原 「いい稽古場を作るためにはみたいな」。
宮藤 「いい稽古場は大切ですよね。いい稽古場を作るために本を書こうかなと思ってますけど。この本を稽古するならいい稽古場になるだろうみたいな(笑)」。
河原 「そんな本ない(笑)。」
宮藤 「本番はとりあえずいいやみたいな(笑)」。  
“見たことのない三田佳子”とそれに翻弄(ほんろう)されるもうすぐ50歳になるおじさん達の関係が面白い

――本番はどんな舞台になりそうですか?

 
宮藤 「前作の『鈍獣』があっての『印獣』なんですけど、今回が第2回って気がしないんですよ。自分で『鈍獣の次だぞ』って意識しないと何の公演なのか忘れちゃいそうな気がして。あまりにも、空気が違うと思うんで。あと、お客さんは、見たことのない三田佳子さんをたっぷり見られるんじゃないですかね。それに翻弄(ほんろう)される、もうすぐ50歳になるおじさん達みたいな関係が面白いんじゃないですかね」。
河原 「三田さんという核があることで、逆に見たことのない三銃士が見れる可能性もあると思います。」
宮藤 「三田佳子って言ってみればジャンルですからね。『笑いあり、涙あり、三田あり』みたいな(笑)。そのくらい大きいもののような気がします。最終兵器ですよ(笑)」。
河原 「そうですね。我々、小劇場出身でやってきた人間がそこに到達できたっていう。感慨深いですよね。それと、到達しすぎたっていう感と(笑)。思い切ったキャスティングになっているので、思い切ったことをやろうと思っているので、ありきたりなものにはならないですよ」。
宮藤 「こんな(キャストが)まとまることはないですからね。」
河原 「このメンバーで、こじんまりしたものを作ろうという方が無理ですからね。そこそこオモシロイ作品を期待している人は来なくていいです(笑)」。
宮藤 「お芝居って、終わると『また一緒にやりましょう、再演やりましょう』みたいな感じになるじゃないですか。前回から5年経ってますからね。そのくらい良くも悪くも強烈だったんでしょうね。だから、次も5年後かな。」  
河原 「僕も、宮藤さんの作品を演出できるっていうのは、毎回楽しいです」。  
宮藤 「僕も同じで、河原さんに演出してもらえると、自分では思ってなかったこととか、自分ではやらなかったり、できなかったりすることができるっていう面白さはありますよね」。  
河原 「ここだけの信頼感で、大変なことが稽古場で起きていても気にしないっていうスタンスですね」。  

――最後に一言お願いします。

 
宮藤・河原 「印獣を見に来て下さい!!」  
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