インタビュー

脚本・宮藤官九郎×演出・河原雅彦が語る舞台「印獣」(前編)

テレビ、映画の脚本や監督として人気の“クドカン”こと宮藤官九郎。演出家として、ナイロン100℃やプロペラ犬などの人気劇団をプロデュースしてきた河原雅彦。“ねずみの三銃士”の依頼を受け、2004年に上演された「鈍獣」でコラボし、そしてシリーズ2作目となる今回も、タッグを組む。公演を前に、この2人にインタビューを敢行。たっぷりと聞いた“ねずみの三銃士”シリーズの裏話を2回に分けてご紹介する。

前回の反省点? (この仕事を)引き受けた事ですかね(笑)
 

――前作「鈍獣」(2004年上演)で“ねずみの三銃士”と初めてコラボしたわけですが、
   前回の反省があればお伺いしたいのですが…。

 
宮藤・河原 「反省はないですね(笑)」。
宮藤 「強いていうなら、この仕事を引き受けた事ですかね(笑)」。
河原 「(苦笑)。ああすれば良かった、こうすればよかったってことでしょ?僕はないですね」。
宮藤 「ある日突然、成志さん(=池田成志・このシリーズを企画したねずみの三銃士の1人)から連絡があって、『おまえんちの近くのイタメシ屋にいるから、ちょっと顔出せよ』って呼び出されて。ホントにウチの近くのイタメシ屋にいたんですよ。『成志さん、こんなところでメシ食べるのかよ』って思っていながら行ったら、『書くの、書かないの』みたいな。だから、反省するところといったらそのイタメシ屋に行ったことですかね(笑)」。

――逆に、「俺たちここ頑張ったよね」というところは?

宮藤 「頑張ったところ…オレはないなぁ…。脚本(ホン)も遅かったしね」。  
河原 「でも宮藤さん、賞取ったじゃないですか。あれで、我々スタッフチームは報われたなぁって思いましたね。『誉められた~』って(笑)」。  
宮藤 「岸田賞のノミネートの話を聞いたときに、成志さんが喜んでくれるだろうなと思って、真っ先に行って報告したら、『そう。だけど、悪いけど取れないと思うよ』ってマジな顔で言われて。古田さんにも同じこと報告したら『まぁね、ノミネートされただけだからね』って。『あれ~、取れないだ』って思いましたね。取れなかったら取れなかったで、なんで取れなかったのかを(ねずみの三銃士と)しゃべろうと思っていたら、賞を取っちゃったんで。その当時の雑誌を読み返していたら、(ねずみの三銃士が)『次も新しい作家を選んで、岸田賞を取らせる』って言ってるんですよ」。  
河原 「どういうことなんですかね(笑)」。
宮藤 「でもまた、僕のところに話が来てますけど。もう一回、岸田賞を取れんのかな(笑)」。
河原 「祝賀会でも、(ねずみの三銃士が)『自分らが取らせた』みたいなこと言ってましたしね(笑)」。
宮藤 「確かにそれはそうなんですけど(苦笑)」。
三田さんは絶対味方に付けた方がいいと思いますよ(笑)

――前回、「ねずみの三銃士」とご一緒してみて、3人はどういう人たちでしたか?。
   印象をお聞かせいただければと思います。

宮藤 「(ねずみの三銃士は)芝居をおもしろくするためにいるような3人じゃないですか。テレビや映画、舞台などそれぞれの仕事を見ていてそう思うんです。そんな人たちが集まっているわけですから、(脚本家として)スゴイ楽ですよね。でも、楽しているだけじゃいけないなって思って、無理なことを要求したりするんです。結局それを舞台として演出するのは、全部河原さんなので。でも、今回は三田さんがいますからね…」。  
河原 「やっぱり、前回とは違うんじゃないですかね」。  
宮藤 「三田さんは絶対味方に付けた方がいいと思いますよ(笑)」。  
河原 「当たり前じゃないですか!」。  
宮藤 「三田さんを味方に付けて、あの3人をコントロールするくらいでないと。
三田さんがここまでやってるんですよ!!みたいな感じで…」。
河原 「前回は若い女の子3人だったので、(ねずみの三銃士が)優しいオジサンみたいな感じで、けいこ場の雰囲気を作ってくれていましたけど、今回は想像つかないですね。(今回のけいこに)三銃士がどういう立ち位置で臨むのか。前回と今回では、趣きが違う感じになると思いますけど…。おそらく、立ち稽古のたびに三田さんはその都度、本気でなさる方だと思うので。さすがに『稽古場にはいてね』って思うけど(笑)。だから今回は…ねぇ。楽しみ…楽しみか(笑)」。
宮藤 「鈍獣のときに当て書き(脚本家が、役の俳優をイメージしながら書いた本)のつもりで書いていたんですけど、河原さんがその当て書きを全部違う人に当てて、配役してくれたんですよ。それがすごい良くて。今回もそれをお願いしたいなと思って。これ、古田さんのつもりで書いているけど、本番は古田さんがやらないかもしれないなって思いながら書いてるとスゴイ楽しいんです」。
河原 「せっかく“三銃士”とやるわけですから、世間がすでに知っている彼らの面白さよりも、それとは外れたあんまり見たことのないところを引き出したい。普通にやれば、どの人もおもしろくやれる方なので。もちろん、押さえるところは押さえるんですけど。本来、稽古に1カ月もいらない人なので、役を代えてみて、意外な役をやると、どうなるのかなみたいなところもあって、前回はそうしたんです。それでもできるからスゴイですよね。でも、三田さんは三田さんでしょ?」。
宮藤 「いやさすがに、三田さんの役まで代えるなんて考えてないって(笑)。それやったらすごいけど。これ三田さんのつもりで書いていたのに、古田さんがやってるよみたいな。それは相当おもしろいですけどね。誰が読んでも三田さんは三田さんの役になると思います」。  
『あのウワサの公演かぁ~』って、距離を置いている自分がいます。
 

――前作を踏まえた上で、今回どういう作品にしたいなという思いがありますか?

 
宮藤 「前作では三銃士の3人がスゴイ深くて、濃いちょっと気持ち悪いくらいの関係性だったんです。だから今回は、まったくの初対面って設定にしたいって、最初に言いましたね。そこからどういう流れで三田さんに話が行ったのかは分からない。まったく覚えてないですね。」。
河原 「お酒っていうのはね(笑)」。
宮藤 「気が大きくなっていきますよね(笑)」。
河原 「今こうやってお話させていただいていますけど、心の準備が出来てないですね。『あのウワサの公演かぁ~』ってどこか他人ごとにして、距離を置いている自分がいます。三田さんがいる舞台を作るって…。始まっちゃったよ、宮藤さん」。
宮藤 「そうなんですよ。普通に誰か一人キャスティングしたっていう感覚じゃないんですよ。最初っから、三田さんの胸に飛び込んでいる感じなんですよね。チラシのデザインからしてそうなんですけど」。
河原 「あんなに小っちゃい三銃士の扱いは、ほかにないですよね」。  
宮藤 「事務所側がそれにクレームを付けないくらい三田さんっていうのはスゴイんです」。  
宮藤官九郎プロフィール   河原雅彦プロフィール